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白内障手術後の回復期間に知っておくべき基本事項
白内障手術は現在、日本で年間約120万件も行われている非常に一般的な手術です。手術自体は10分程度で終わる日帰り手術が主流となっていますが、術後の回復期間にどのように過ごすかが視力回復の質に大きく影響します。
手術後の回復には個人差がありますが、多くの場合1週間程度で通常の生活に戻れるようになります。しかし、完全に安定するまでには1〜3ヶ月ほどかかることもあるのです。
白内障手術は水晶体の濁りを取り除き、眼内レンズを挿入する手術です。この手術により、多くの患者さんの視力は劇的に改善します。ただし、手術直後から完璧な視力が得られるわけではなく、回復には一定の期間が必要となります。
私は南船橋眼科の院長として、数多くの白内障手術を担当してきました。その経験から、手術後の適切なケアが視力回復と合併症予防に非常に重要だと実感しています。今回は、白内障手術後に患者さんが知っておくべき7つの注意点について詳しく解説します。
1. 感染予防のための点眼と清潔管理
白内障手術後に最も注意すべきことは、目の感染予防です。手術により目の表面に小さな傷がついているため、細菌が入りやすい状態になっています。
医師から処方された点眼薬は、感染予防と炎症を抑えるために非常に重要です。指示された通りに、決められた回数と時間帯に必ず点眼してください。一般的に術後の点眼は最低1ヶ月は継続する必要があります。
また、手術後は目を絶対に触らないようにしましょう。手術当日は眼帯や保護メガネを装着していますが、これらは医師の許可なく外さないでください。目に細菌が入るリスクのある行為は避けなければなりません。
手術直後の洗顔・洗髪は控え、目に水が入らないよう注意してください。首から下のシャワーは手術翌日から可能ですが、洗顔・洗髪は術後1週間の診察後に医師の許可が出てから行うのが安全です。
目をこすったり強く押したりする行為は、傷口が開いてしまう危険性があるため絶対に避けてください。術後1週間は特に注意が必要です。
感染予防のための清潔管理は、合併症のリスクを大幅に減らし、スムーズな回復につながります。ご自身の目を守るために、この点は特に徹底していただきたいと思います。
2. 術後の見え方の変化と対処法

白内障手術後、多くの患者さんが見え方の変化を経験します。これは手術前に濁っていた水晶体が透明な眼内レンズに置き換わったことによるものです。
まず多くの方が感じるのが「まぶしさ」です。手術前は濁った水晶体を通して見ていたため、手術後に急に大量の光が入るようになり、まぶしく感じることがあります。これは時間の経過とともに徐々に慣れていくことがほとんどですが、外出時にはサングラスの着用が効果的です。
また「青みがかって見える」という症状も珍しくありません。これは水晶体が加齢によって黄色味を帯びていたものが、透明なレンズに変わったことで、青色をはじめとする短波長の光が目に入りやすくなったためです。この症状も時間とともに脳が適応し、自然な色覚に戻ります。
夜間に自動車のライトがまぶしく感じたり、光の周りに輪がかかったように見えたりする症状が出ることもあります。これは眼内レンズで反射した光が散乱することで起こる現象で、ほとんどの場合は時間とともに気にならなくなります。
視力の回復には個人差があり、手術当日から良く見えるようになる方もいれば、1週間以上かけて徐々に回復していく方もいます。角膜や網膜の状態など様々な要因で回復の速さは異なりますので、焦らずに経過を見守ることが大切です。
見え方に不安や違和感がある場合は、自己判断せずに担当医に相談してください。多くの場合は正常な回復過程ですが、早期発見が必要な合併症もあります。
3. 日常生活の制限と段階的な活動再開
白内障手術後の日常生活には、一定期間いくつかの制限があります。これらの制限は、目の傷が完全に治るまでの安全を確保するためのものです。
手術当日は安静にして、入浴やシャワーは控えましょう。テレビを見たり、軽い読書をしたりする程度なら問題ありませんが、目に負担をかけないよう適度に休憩を取ることが大切です。
首から下のシャワーや肩までの入浴は手術翌日から可能ですが、顔や頭は濡らさないようにしてください。
洗顔・洗髪・化粧・飲酒は、術後1週間の診察後に異常がなければ再開できます。ただし、目の周りの化粧は術後1ヶ月程度は控えた方が良いでしょう。特にアイメイクは感染リスクを高める可能性があります。
仕事や家事については、軽作業であれば手術翌日から無理のない範囲で行うことができます。ただし、埃っぽい場所での作業や重い物を持ち上げるなどの行為は、術後1ヶ月程度は控えた方が安全です。
車の運転は個人差がありますが、原則として手術直後の運転は禁止です。眼帯が取れるタイミングか、医師の許可が出るまでは運転を控えましょう。
サウナや水泳などは目に水や汗が入りやすく、また血圧の上昇を招くため、術後1ヶ月程度は控えることをお勧めします。
どのような活動でも、「いつから再開できるか」は個人の回復状況によって異なります。必ず担当医の指示に従い、無理をしないことが大切です。
4. 眼内レンズの特性と新しい見え方への適応
白内障手術で挿入される眼内レンズには、若い人の水晶体のようにピントを調節する力がありません。そのため、見る距離によってはメガネが必要になることがあります。
一般的な単焦点眼内レンズの場合、遠くと近くの両方をクリアに見ることはできません。手術前に医師と相談し、どの距離にピントを合わせるかを決めておくことが重要です。
例えば、遠くを見ることが多い方(運転や旅行など外出が多い方)は、遠くに焦点を合わせたレンズを選び、近くを見るときには老眼鏡を使用します。反対に、読書や手芸など近くを見ることが多い方は、近くに焦点を合わせたレンズを選び、遠くを見るときにメガネを使用します。
また、片方の目は遠く、もう片方の目はやや手前側が見えるようにするモノビジョン法や、遠近両用の多焦点眼内レンズという選択肢もあります。ただし、これらは全ての方に適しているわけではないため、詳しくは担当医にご相談ください。
新しい眼内レンズに脳が適応するまでには時間がかかることがあります。特に両眼の手術を時期をずらして行った場合は、両眼のバランスが取れるまで違和感を覚えることもあるでしょう。
眼内レンズは交換やメンテナンスの必要がなく、その寿命は人間の寿命よりもはるかに長いと考えられています。一度挿入すれば、特別な理由がない限り交換する必要はありません。
5. 術後に気をつけるべき警告サイン
白内障手術は非常に安全な手術ですが、まれに合併症が起こることがあります。早期発見・早期治療が重要ですので、以下のような症状が現れたら、すぐに担当医に連絡してください。
強い痛みが続く場合は要注意です。手術直後は軽い違和感や異物感を感じることがありますが、強い痛みが続く場合は感染や炎症の可能性があります。
視力が急に悪化した場合も早急に受診が必要です。徐々に視力が回復するのが通常ですが、一度良くなった視力が急に悪化した場合は、網膜剥離や眼内炎などの合併症の可能性があります。
目の充血が強くなる、まぶしさが極端に強い、目やにが増える、視界に大きな浮遊物が突然現れるといった症状も、合併症のサインかもしれません。
特に注意すべき合併症として、眼内炎(感染症)があります。これは創口から細菌感染を起こした場合に発症し、適切な治療が遅れると重篤な視力障害を残すことがあります。
嚢胞様黄斑浮腫という合併症もあります。これは網膜の中心部分(黄斑)にむくみが生じる状態で、術後の点眼治療を怠ったり、糖尿病がある方に起こりやすいとされています。
また、術後数ヶ月から数年経過すると、後発白内障という状態になることがあります。これは水晶体を入れていた袋(水晶体嚢)が濁ることで起こり、「再び白内障になった」と思われがちですが、実際は別の現象です。レーザー治療で改善できますので、見え方が悪くなったと感じたら診察を受けてください。
6. 眼鏡の処方と視力安定までの過程

白内障手術前に使用していた眼鏡は、術後にはほとんどの場合で合わなくなります。新しい眼鏡を作成するタイミングは、視力が安定してからが適切です。
一般的に、視力が安定するまでには術後1〜2ヶ月程度かかります。この期間は人によって異なり、手術の難易度や術前の白内障の程度によっても変わってきます。
視力が安定する前に眼鏡を作ってしまうと、その後さらに視力が変化して再度作り直す必要が生じることがあります。経済的にも負担となりますので、医師の指示に従って適切なタイミングで眼鏡を作成することをお勧めします。
ただし、日常生活に支障がある場合は、医師と相談の上、一時的な眼鏡を作成することも検討できます。特に両眼の手術を時期をずらして行う場合は、中間期の対応として必要になることもあります。
眼鏡の種類も重要です。単焦点眼内レンズを挿入した場合、遠くと近くの両方を見るためには、遠近両用メガネや老眼鏡が必要になることがあります。生活スタイルに合わせた眼鏡選びについても、眼科医や認定眼鏡士にご相談ください。
視力の安定には個人差がありますので、焦らずに経過を見守ることが大切です。定期的な診察を受けながら、最適なタイミングで眼鏡を作成しましょう。
7. 長期的な眼の健康維持と定期検診の重要性
白内障手術が成功しても、その後の眼の健康維持のためには定期的な検診が欠かせません。手術後も緑内障や加齢黄斑変性症などの眼疾患のリスクは残っているからです。
術後の定期検診は通常、手術翌日、3日後、1週間後、1ヶ月後に行われます。その後は3〜6ヶ月ごとの検診が推奨されますが、他の眼疾患がある場合はより頻繁に検診が必要になることもあります。
後発白内障は白内障手術を受けた方の20〜40%に発生するとされています。症状としては、手術後しばらく経ってから「また見えにくくなった」「まぶしく感じる」などがあります。これはレーザー後嚢切開術という処置で改善できますので、症状を感じたら受診してください。
目の健康は全身の健康とも関連しています。バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠、禁煙などの健康的な生活習慣を心がけることも、長期的な眼の健康維持には重要です。
特に糖尿病や高血圧などの持病がある方は、これらの疾患のコントロールも眼の健康に直結します。主治医と眼科医の両方と連携して、総合的な健康管理を行いましょう。
まとめ:安心して回復するために
白内障手術後の回復期間は、新しい視界への適応期間でもあります。感染予防のための点眼と清潔管理、見え方の変化への理解と対応、日常生活の段階的な再開、眼内レンズの特性の理解、警告サインへの注意、適切なタイミングでの眼鏡処方、そして長期的な眼の健康維持のための定期検診が重要です。
手術後の過ごし方に不安がある場合は、遠慮なく担当医に相談してください。一人ひとりの生活スタイルや眼の状態に合わせたアドバイスを受けることで、より安心して回復期間を過ごすことができます。
南船橋眼科では、白内障手術後のフォローアップも丁寧に行っております。手術後の不安や疑問にもしっかりと対応し、患者さん一人ひとりの視力回復をサポートしています。「目の健康をもっと身近に」という理念のもと、これからも地域の皆様の眼の健康を守るために尽力してまいります。
詳しい情報や診療予約については、南船橋眼科のホームページをご覧いただくか、お電話でお問い合わせください。皆様の目の健康を守るお手伝いができることを楽しみにしております。
著者情報
南船橋眼科 院長 佐倉達朗

経歴
- 筑波大学医学群医学類 卒業
- 東京都立多摩総合医療センター 臨床研修医
- 東京医科歯科大学医学部附属病院 眼科
- 東京都保健医療公社大久保病院 眼科
- 川口市立医療センター 眼科
- 川口工業総合病院 眼科
- 柏厚生総合病院 眼科
- 南船橋眼科 院長



