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白内障手術とは?基本的な知識と最新情報
白内障は、目の中にある水晶体が徐々に濁っていく病気です。この水晶体の濁りによって、視界がかすんだり、まぶしく感じたりするなどの症状が現れます。加齢が主な原因とされており、80歳以上ではほぼ100%の方が発症するとも言われています。
私たち眼科医が行う白内障手術は、この濁った水晶体を取り除き、代わりに人工の水晶体(眼内レンズ)を挿入する治療法です。現在の白内障手術は医療技術の進歩により、日帰りで受けられる安全性の高い手術となっています。
白内障手術の基本的な方法は「超音波乳化吸引術」と呼ばれるもので、小さな切開創から器具を挿入し、濁った水晶体を砕いて吸引します。その後、柔らかい素材でできた折りたたみ可能な眼内レンズを挿入します。
この手術は通常、局所麻酔で行われるため、患者さんは意識がある状態で受けることになります。手術時間は症例によって異なりますが、多くの場合5〜10分程度で終了します。
白内障手術の7つのメリット
白内障手術には多くのメリットがあります。ここでは特に重要な7つのメリットについて詳しく解説します。
1. 視力の回復
白内障手術の最も大きなメリットは、やはり視力の回復です。濁った水晶体を取り除くことで、光が網膜に正しく届くようになり、視界がクリアになります。
多くの患者さんは手術後、「こんなにはっきり見えるようになるとは思わなかった」と驚かれます。色の鮮やかさを取り戻せることも大きな喜びとなります。
私が担当した80代の女性患者さんは、手術後に「孫の顔がこんなにはっきり見えるなんて」と涙を流されたことがあります。日常生活の質が大きく向上するのは間違いありません。
2. 生活の質の向上
視力が回復することで、読書や運転、テレビ視聴など日常生活のあらゆる場面で生活の質が向上します。特に夜間の運転時の眩しさが軽減されることで、安全性も高まります。
また、視力低下によって制限されていた趣味や活動を再開できることも、患者さんの生活満足度を大きく向上させます。
3. 他の眼疾患の早期発見・治療
白内障によって眼底が見えにくくなっていた場合、手術後に眼底検査が可能になることで、網膜疾患や緑内障などの他の眼疾患を正確に診断できるようになります。
これにより、以前は白内障の陰に隠れていた問題を早期に発見し、適切な治療を行うことができるようになります。
4. 屈折異常の同時矯正
白内障手術では、眼内レンズの度数を調整することで、近視や遠視、乱視などの屈折異常を同時に矯正することが可能です。
特に強度の近視や遠視に悩んでいた方は、白内障手術によって裸眼視力が大幅に改善することもあります。これは単なる白内障治療を超えた大きなメリットと言えるでしょう。
5. 多焦点眼内レンズによる老眼矯正の可能性
通常の単焦点眼内レンズに加え、近方から遠方まで幅広い距離にピントを合わせられる多焦点眼内レンズも選択肢として存在します。
多焦点眼内レンズを選択することで、老眼の症状も同時に改善できる可能性があります。ただし、保険適用外となるため追加費用が必要です。また、すべての方に適しているわけではないため、詳しくは眼科医との相談が必要です。
6. 半永久的な効果
白内障手術で挿入する眼内レンズは半永久的に使用できるものです。一度手術を受ければ、基本的にはレンズの交換や調整は必要ありません。
眼内レンズの寿命は人間の寿命よりも長いとされており、一生涯にわたって効果が持続します。
7. 安全性の高さ
現代の白内障手術は、医療技術や手術機器の進歩により、非常に安全性の高い手術となっています。
小さな切開創で行える低侵襲な手術であり、術後の回復も早いのが特徴です。日本では年間160万件以上実施されている最も一般的な眼科手術の一つです。
知っておくべき白内障手術のリスクと合併症
白内障手術は安全性の高い手術ですが、どんな手術にもリスクはつきものです。患者さんが適切な判断をするためにも、起こりうるリスクについて正確に理解しておくことが重要です。
手術中のリスク

手術中に起こる可能性のある合併症としては、後嚢破損や水晶体核の落下、虹彩損傷などがあります。経験豊富な眼科医が適切な対応をすることで、多くの場合は大きな問題にはなりません。
ただし、これらの合併症が生じた場合、予定していた眼内レンズの挿入ができなくなったり、追加の手術が必要になったりすることもあります。
あなたは不安に思われるかもしれませんが、こうした合併症の発生率は非常に低く、多くの患者さんは問題なく手術を終えています。
術後早期の合併症
術後早期に起こりうる合併症としては、眼圧上昇、角膜浮腫、前房出血、眼内炎などがあります。
特に眼内炎は頻度は非常に低いものの(0.05%未満)、視力に重大な影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。術後の点眼薬をしっかり使用し、異常を感じたらすぐに受診することが大切です。
私の臨床経験では、術後の感染症は極めて稀ですが、予防のために術後の清潔管理と点眼薬の使用を患者さんには必ず徹底していただいています。
術後晩期の合併症
術後数ヶ月から数年経過してから生じる可能性のある合併症としては、後発白内障や眼内レンズの位置ずれなどがあります。
後発白内障は、水晶体を入れる袋(水晶体嚢)が白く濁る現象で、比較的頻度の高い合併症です。しかし、レーザー治療で解決できることがほとんどです。
白内障手術を受けるべきタイミングは?
白内障手術を受けるべき適切なタイミングについては、患者さんによって異なります。以下のような状況であれば、手術を検討する時期かもしれません。
日常生活に支障をきたしている場合
読書や運転、テレビ視聴などの日常生活に支障が出始めたら、手術を検討するタイミングです。特に安全面に関わる運転に影響が出ている場合は、早めの手術を考慮すべきでしょう。
「まだ見えるから大丈夫」と思っていても、実は知らず知らずのうちに視界の質が低下していることもあります。定期的な眼科検診で状態を確認することをおすすめします。
他の眼疾患の診断・治療に支障がある場合
白内障によって眼底の観察が難しく、網膜疾患や緑内障などの診断・治療に支障がある場合は、それらの疾患の適切な管理のために白内障手術が必要になることがあります。
特に糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などの疾患がある場合は、眼科医と相談の上で適切なタイミングを決めることが重要です。
検査数値よりも自覚症状を重視
白内障手術のタイミングは、視力検査の数値だけで決めるものではありません。同じ視力でも、患者さんによって日常生活での不便さの感じ方は異なります。
私は患者さんの生活スタイルや困っている症状をしっかりと伺った上で、手術のタイミングについて一緒に考えるようにしています。
あなたの生活の中で「これができなくて困っている」という具体的な場面があれば、ぜひ眼科医に相談してみてください。
白内障手術後の生活と注意点
白内障手術後の回復は比較的早いですが、いくつか注意すべき点があります。術後の生活をスムーズに送るためのポイントをご紹介します。
術後の点眼薬
術後は炎症を抑えるステロイド点眼薬や、感染予防のための抗菌点眼薬などを使用します。これらの点眼薬は医師の指示通りに正確に使用することが非常に重要です。
点眼薬の使用を怠ると、炎症が長引いたり感染症のリスクが高まったりする可能性があります。点眼のスケジュールを守ることが、順調な回復への鍵となります。
清潔管理
術後しばらくは、目をこすったり汚れた手で目に触れたりしないよう注意が必要です。また、洗顔や洗髪についても医師の指示に従いましょう。
通常は術後1週間程度で通常の洗顔が可能になりますが、それまでは清拭にとどめるなど、医師の指示に従ってください。
日常生活の制限

術後すぐに普通の生活に戻れることが多いですが、重い物を持ち上げる、激しい運動をするなどの活動は、医師の許可があるまで控えるべきです。
特に術後早期は、目に圧力がかかるような動作を避けることが大切です。具体的な制限については、担当医の指示に従いましょう。
メガネの調整
白内障手術によって目の屈折状態が変わるため、それまで使用していたメガネが合わなくなることがあります。新しいメガネの処方は、通常術後1ヶ月程度経過してから行います。
それまでの間は、以前のメガネを使用するか、必要に応じて一時的なメガネを処方することもあります。
多焦点眼内レンズと単焦点眼内レンズの選択
白内障手術では、挿入する眼内レンズの種類を選ぶことができます。主な選択肢は単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズです。それぞれの特徴を理解して、自分に合ったレンズを選びましょう。
単焦点眼内レンズ
単焦点眼内レンズは一つの距離にのみピントを合わせることができるレンズです。遠方視力を優先する場合は、近くを見るときに老眼鏡が必要になります。逆に近方視力を優先すると、遠くを見るときにメガネが必要です。
保険適用となるため費用負担が少なく、コントラスト感度(明暗や色の濃淡の差を見分ける能力)が良好で、夜間視力も優れています。多くの患者さんにとって適した選択肢です。
単焦点眼内レンズの中にも、乱視を同時に矯正できるトーリックレンズなどの選択肢があります。
多焦点眼内レンズ
多焦点眼内レンズは、遠方から近方まで複数の距離にピントを合わせることができるレンズです。メガネへの依存度を減らしたい方に適しています。
ただし、保険適用外となるため追加費用が必要です。また、単焦点レンズと比べてコントラスト感度が低下したり、光源の周りに輪が見える(ハロー現象)などの症状が出ることもあります。
多焦点眼内レンズは全ての方に適しているわけではありません。ライフスタイルや目の状態によって適応が異なりますので、眼科医とよく相談して決めることが重要です。
まとめ:白内障手術で人生の視界を取り戻す
白内障手術は視力回復だけでなく、生活の質向上、他の眼疾患の早期発見、屈折異常の同時矯正など、多くのメリットがあります。現代の医療技術の進歩により、安全性の高い日帰り手術として確立されています。
もちろん、どんな手術にもリスクはありますが、適切な術前検査と経験豊富な眼科医による手術、そして術後の適切なケアによって、多くの合併症は予防・対処可能です。
手術のタイミングは個人の生活スタイルや困っている症状によって異なります。日常生活に支障が出始めたら、手術を検討するタイミングかもしれません。
眼内レンズの選択も重要なポイントです。単焦点レンズと多焦点レンズのそれぞれの特徴を理解し、自分のライフスタイルに合ったものを選びましょう。
白内障は誰もが経験する可能性のある目の病気ですが、適切な治療によって視界を取り戻し、豊かな生活を送ることができます。気になる症状があれば、ぜひ眼科専門医に相談してください。
南船橋眼科では、患者さん一人ひとりの目の状態やライフスタイルに合わせた白内障治療を提供しています。多焦点眼内レンズや乱視矯正レンズなど様々な種類のレンズを取り扱っており、日帰り白内障手術も実施しております。詳しくは南船橋眼科までお気軽にご相談ください。
著者情報
南船橋眼科 院長 佐倉達朗

経歴
- 筑波大学医学群医学類 卒業
- 東京都立多摩総合医療センター 臨床研修医
- 東京医科歯科大学医学部附属病院 眼科
- 東京都保健医療公社大久保病院 眼科
- 川口市立医療センター 眼科
- 川口工業総合病院 眼科
- 柏厚生総合病院 眼科
- 南船橋眼科 院長



