
白内障手術の基本と最新動向
白内障は、目のレンズにあたる水晶体が白く濁ってしまう病気です。加齢に伴って発症率が高まり、80歳以上ではほぼ100%の方が何らかの水晶体混濁を持つとされています。日常生活に支障をきたすようになったら、手術による治療が一般的です。
白内障手術は、濁った水晶体を取り除き、代わりに人工の眼内レンズを挿入する治療法です。この手術は現在、日本で最も多く行われている手術の一つとなっています。
2025年現在、白内障手術は技術の進歩により、より安全で効果的になっています。特に眼内レンズの種類が多様化し、患者さんのライフスタイルに合わせた選択が可能になりました。
人生100年時代と言われる現代において、白内障手術は「一生に一度の大切な選択」と言えるでしょう。特に2025年は「2025年問題」と呼ばれる超高齢社会の本格到来により、白内障手術のニーズがさらに高まっています。
この記事では、白内障手術の費用と選べるレンズの種類について、最新情報をもとに詳しく解説します。手術を検討されている方が、後悔のない選択ができるよう、専門医の立場からアドバイスしていきます。
白内障手術の費用体系
白内障手術の費用は、選択する眼内レンズの種類によって大きく異なります。2025年現在の費用体系を詳しく見ていきましょう。
白内障手術の費用は、主に以下の3つのパターンに分けられます。
- 単焦点眼内レンズを用いた保険診療
- 多焦点眼内レンズを用いた選定療養
- 多焦点眼内レンズを用いた自費診療
単焦点眼内レンズの保険診療費用
単焦点眼内レンズを使用する場合は、健康保険が適用されます。患者さんの自己負担割合によって費用が変わります。
- 1割負担の方:片目 約15,000円 / 両目 約30,000円
- 2割負担の方:片目 約30,000円 / 両目 約60,000円
- 3割負担の方:片目 約45,000円 / 両目 約90,000円
ただし、高額療養費制度を利用することで、実際の支払い額はこれより少なくなる可能性があります。特に両目の手術を同じ月に受けることで、費用を抑えることができます。
多焦点眼内レンズの選定療養費用
選定療養とは、保険診療と保険外診療を組み合わせた制度です。2020年4月から多焦点眼内レンズを用いた白内障手術が選定療養として認められるようになりました。
選定療養の場合、手術費用は保険適用されますが、レンズ代は自己負担となります。例えば、3割負担の方の場合、手術代約90,000円(保険適用)にレンズ代約300,000円(自費)を加えた、合計約39万円程度が目安となります。
選定療養を利用することで、従来の全額自己負担に比べて費用負担を軽減できるメリットがあります。
多焦点眼内レンズの自費診療費用
完全自費診療の場合、手術費用もレンズ代も全額自己負担となります。費用は医療機関によって異なりますが、一般的に以下のような価格帯となっています。
- 片目:50万〜100万円
- 両目:100万〜200万円
自費診療の場合、高額療養費制度の適用はありませんが、医療費控除の対象となります。
どうでしょうか?費用面でも様々な選択肢があることがお分かりいただけたでしょうか。
眼内レンズの種類と特徴
白内障手術で使用する眼内レンズには、大きく分けて単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズの2種類があります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
単焦点眼内レンズ
単焦点眼内レンズは、一つの距離にのみピントを合わせることができるレンズです。通常は「遠方」「中間」「近方」のいずれか一つに焦点を合わせます。
- 遠方に焦点を合わせた場合:遠くがよく見えますが、近くを見る際には老眼鏡が必要になります。
- 中間に焦点を合わせた場合:室内での活動はおおよそ裸眼で行えますが、遠くや近くをはっきり見たい場合にはメガネが必要になることがあります。
- 近方に焦点を合わせた場合:近くがよく見えますが、遠くを見る際にはメガネが必要になります。
単焦点眼内レンズは全て保険適用となるため、費用負担が少ないというメリットがあります。また、ピントを合わせた距離では非常に鮮明に見えるという特徴があります。
多焦点眼内レンズ
多焦点眼内レンズは、複数の距離にピントを合わせることができるレンズです。大きく分けて以下の3種類があります。
- 2焦点眼内レンズ:遠方と近方の2か所にピントが合います。
- 3焦点眼内レンズ:遠方、中間、近方の3か所にピントが合います。
- 焦点深度拡張型(EDOF):ピントが合う範囲が少し拡張されたタイプです。
多焦点眼内レンズの最大のメリットは、日常生活のほとんどの場面でメガネが不要になる可能性が高いことです。特に3焦点眼内レンズは、遠方から近方までカバーするため、メガネへの依存度が大幅に減少します。
ただし、多焦点眼内レンズにはデメリットもあります。レンズの構造上、ハローやグレアと呼ばれる光の周りに輪が見えたり、光がギラギラ見えたりする現象が生じることがあります。また、単焦点レンズに比べてコントラスト感度がやや低下する場合もあります。
乱視矯正眼内レンズ(トーリックレンズ)
白内障と同時に乱視を矯正したい場合は、乱視矯正眼内レンズ(トーリックレンズ)を選択することができます。トーリックレンズは単焦点タイプと多焦点タイプの両方があり、保険適用、選定療養、自費診療のいずれの形態でも利用可能です。
乱視の種類や程度によっては適さない場合もありますので、手術前の詳細な検査と医師の診断が重要になります。
2025年最新の多焦点眼内レンズ
2025年現在、日本で使用されている主な多焦点眼内レンズについて、特徴を詳しく見ていきましょう。
選定療養対象の多焦点眼内レンズ
選定療養の対象となっている多焦点眼内レンズには、以下のようなものがあります。
テクニスオデッセイ(TECNIS Odyssey)
テクニスオデッセイは、回折型多焦点眼内レンズの一つです。遠方から近方までの見え方のバランスが良く、ハローやグレアなどの不快な症状が比較的少ないという特徴があります。
テクニスシナジー(TECNIS Synergy)
テクニスシナジーは、特に近方の見え方に優れた回折型多焦点眼内レンズです。細かい文字を読むことが多い方に適しています。
クラレオンパンオプティクス(Clareon PanOptix)
クラレオンパンオプティクスは、日本で最初に承認された3焦点眼内レンズの改良版です。遠方、中間、近方のバランスが良く、コントラスト感度の低下も比較的少ないという特徴があります。
これらのレンズはいずれも選定療養の対象となっており、手術費用は保険適用、レンズ代は自己負担という形で手術を受けることができます。
自費診療の多焦点眼内レンズ
自費診療で使用される多焦点眼内レンズには、以下のようなものがあります。
焦点深度拡張型(EDOF)レンズ
焦点深度拡張型レンズは、ハローやグレアなどの症状がほとんど出ないという大きなメリットがあります。一方で、近方の見え方がやや弱く、細かい文字を読む際には老眼鏡が必要になることがあります。
代表的なものとしては、テクニスシンフォニーやミニウェルなどがあります。特にミニウェルはイタリア製の多焦点眼内レンズで、ハローやグレアがほとんど発生しないという特徴があります。
5焦点眼内レンズ(インテンシティ)
最新の技術を採用した5焦点眼内レンズも登場しています。より多くの焦点を持つことで、さまざまな距離での見え方がさらに向上しています。
自費診療のレンズは、選定療養対象外のため全額自己負担となりますが、最新の技術を取り入れた高性能なレンズが多いという特徴があります。
眼内レンズ選びのポイント
眼内レンズの選択は、術後の生活の質に大きく影響します。どのレンズを選ぶべきか、いくつかのポイントを紹介します。
ライフスタイルに合わせた選択
眼内レンズを選ぶ際は、ご自身の生活スタイルや優先したい視力の距離を考慮することが重要です。
- 読書や手芸など近くの作業が多い方:近方視力を重視したレンズ選択
- ゴルフやドライブなど遠くを見ることが多い方:遠方視力を重視したレンズ選択
- パソコン作業が多い方:中間距離を重視したレンズ選択
- メガネをかけたくない方:多焦点眼内レンズの検討
眼の健康状態による制限
多焦点眼内レンズは全ての方に適しているわけではありません。以下のような眼の状態がある場合は、多焦点レンズが適さないことがあります。
- 角膜の形態が不整な場合
- 網膜や視神経に病気がある場合
- 強い乱視がある場合(ただし、乱視矯正型の多焦点レンズで対応できる場合もあります)
手術前の詳細な検査で、どのレンズが適しているかを医師と相談することが重要です。
費用と保険制度の活用
眼内レンズの選択において、費用も重要な考慮点です。以下のような制度を活用することで、費用負担を軽減できる可能性があります。
高額療養費制度の活用
保険診療や選定療養の場合、高額療養費制度を利用することで自己負担額の上限が設定されます。特に両目の手術を同じ月に受けることで、費用を抑えることができます。
- 70歳以上の方:収入によって異なりますが、一般的な方で月額上限8,000円(1割負担)〜18,000円(2割負担)
- 70歳未満の方:収入によって異なりますが、年収370万〜770万円の方で月額上限90,000円
医療費控除の活用
自費診療を含む医療費は、確定申告の際に医療費控除の対象となります。年間の医療費が10万円(または所得の5%)を超えた場合、最大で200万円まで所得から控除されます。
特に高額な多焦点眼内レンズを選択する場合は、医療費控除を活用することで税金面での負担軽減が期待できます。
白内障手術の流れと注意点
白内障手術は、現在では日帰りで行われることが一般的です。手術の流れと注意点について説明します。
手術前の検査と準備
白内障手術を受ける前には、以下のような検査を行います。
- 視力検査
- 眼圧検査
- 角膜形状解析
- 眼軸長測定
- 眼底検査
- 一般的な血液検査
これらの検査結果をもとに、最適な眼内レンズの度数や種類を決定します。また、手術前には点眼薬による治療を開始することがあります。
手術当日の流れ
白内障手術は通常、以下のような流れで行われます。
- 点眼麻酔(必要に応じて局所麻酔)
- 消毒
- 小さな切開(約2〜3mm)
- 超音波による水晶体の乳化吸引
- 眼内レンズの挿入
- 手術終了(縫合が必要ない場合が多い)
手術時間は通常15〜30分程度で、痛みはほとんどありません。日帰りで行われることが多く、当日は安静にして帰宅します。
術後のケアと経過
術後は以下のような点に注意します。
- 点眼薬を指示通りに使用する
- 目をこすらない
- 洗顔や洗髪は医師の指示に従う
- 激しい運動や重い物の持ち上げを避ける
- 定期的な通院で経過観察を受ける
術後の視力は徐々に安定していきます。多焦点眼内レンズの場合は、見え方に慣れるまでに1〜3ヶ月程度かかることがあります。
後発白内障について
白内障手術後、数ヶ月から数年経過すると、眼内レンズの後ろの膜(後嚢)が白く濁る「後発白内障」が生じることがあります。これは白内障の再発ではなく、残った水晶体の袋が濁るものです。
後発白内障が生じた場合は、YAGレーザーによる後嚢切開術という簡単な処置で改善します。この処置は数分で終わり、痛みもほとんどありません。
まとめ:後悔しない白内障手術のために
白内障手術は一生に一度の大切な選択です。後悔しない手術のために、以下のポイントを押さえておきましょう。
- ライフスタイルに合ったレンズ選び:日常生活で重視する視距離や活動内容に合わせて、最適なレンズを選びましょう。
- 費用と効果のバランス:保険診療、選定療養、自費診療のメリット・デメリットを理解し、ご自身の予算と希望する見え方のバランスを考慮しましょう。
- 医療費負担軽減制度の活用:高額療養費制度や医療費控除を活用して、費用負担を軽減しましょう。
- 信頼できる医師との相談:眼の状態や希望をしっかりと医師に伝え、十分な説明を受けた上で決断することが重要です。
白内障手術は技術の進歩により、より安全で効果的になっています。特に2025年現在は、多様な眼内レンズの選択肢があり、より個人のニーズに合った治療が可能になっています。
当院では、患者さん一人ひとりのライフスタイルや眼の状態に合わせた最適な治療をご提案しています。白内障でお悩みの方は、まずは検査・相談にお越しください。
「目の健康を もっと身近に」という理念のもと、専門的な知識と経験を活かして、皆様の大切な視力をサポートいたします。
詳しい情報や予約については、南船橋眼科のウェブサイトをご覧いただくか、お電話にてお問い合わせください。
経歴
- 筑波大学医学群医学類 卒業
- 東京都立多摩総合医療センター 臨床研修医
- 東京医科歯科大学医学部附属病院 眼科
- 東京都保健医療公社大久保病院 眼科
- 川口市立医療センター 眼科
- 川口工業総合病院 眼科
- 柏厚生総合病院 眼科
- 南船橋眼科 院長